環境・衛生薬学トピックス

ビタミンKの体内動態-吸収・変換・代謝に関して-

芝浦工業大学システム理工学部生命科学科 廣田佳久

 ビタミンKは血液凝固や骨形成に重要であり、臨床では凝血薬や骨粗鬆症治療薬として臨床応用されています。ビタミンKは、キノンと呼ばれる環構造を共通構造として持っています。この環構造に結合する側鎖構造の違いによって、植物由来でフィチル側鎖を持つビタミンK1(フィロキノン)、動物や微生物由来のイソプレニル側鎖を持つビタミンK2(メナキノン、化学合成品として側鎖を持たないビタミンK3(メナジオン)に分類されます1)ビタミンKは様々な食事から摂取することが出来ますが、総ビタミンK摂取量の90%以上を緑葉野菜などに含まれるフィロキノンが占めます。メナキノン類はイソプレニル側鎖の長さに応じてメナキノン-1~14が存在します。オランダの疫学研究からメナキノン類の中でも、鶏肉や卵黄に比較的多く含まれるメナキノン-4が総ビタミンK摂取に占める2.5%程度、チーズ,ヨーグルトや納豆に代表される発酵食品に多く含まれるメナキノン-5~9が総和として7.5%程度であると報告されています2, 3)。また、食事由来のビタミンKとは別に、腸内細菌がメナキノン-7~12を合成することが出来ますが、ビタミンK必要量に寄与する割合は低いため、食事からのビタミンK摂取が不可欠です4, 5)

 このように食事から摂取されたビタミンKは、他の脂溶性物質と同様に小腸から吸収されることが報告されています。特に、食事から摂取されたフィロキノンは、食物成分の消化過程で生成する胆汁酸ミセル注)に取り込まれて、コレステロール吸収にも重要な働きを示すNiemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)などの輸送タンパク質を介して小腸の上皮細胞に取り込まれま6, 7)その後、取り込まれたフィロキノンはリンパ管を経て全身へ移行します。ヒトやラットでは、組織中フィロキノン濃度は肝臓や心臓などでは比較的高く、脳や腎臓などでは比較的低く移行量が異なることが分かっています。一方、メナキノン類の中でもメナキノン-4はほとんど全ての組織に存在し、特に脳や膵臓、副腎などに多く、組織中の濃度はフィロキノンの濃度を遥かに超える場合が多いことが知られていました8, 9)。これまでの研究から、総ビタミンK摂取に占めるメナキノン-4の割合は非常に低いことから、摂取したメナキノン-4量と組織中に存在するメナキノン-4量が一致しない「謎」が1960年代から存在していました。

 この「謎」を解決するため、50年以上にわたり、多くの研究者がビタミンK代謝研究を行ってきました。その結果、天然に存在しない様々な安定同位体標識注)したビタミンKを用いることによって、生体内でフィロキノンからメナキノン-4へ変換されることが分かりました10, 11, 12)。食事から摂取したフィロキノンの一部は小腸で吸収される際に、側鎖を持たないビタミンKであるメナジオン様の中間体に形を変えて、全身へ移行します13)。移行した中間体が各組織においてビタミンK変換酵素UBIAD1によってメナキノン-4へ変換されることで様々なビタミンKの生理機能を発揮していると考えられています14, 15)。現在、ビタミンK変換酵素UBIAD1はがんや脳変性疾患、血管石灰化、脂質代謝異常といった様々な疾患に関与することが報告されています16, 17, 18, 19)。体内におけるビタミンK代謝研究が今後も進むことによって、ビタミンK変換される理由が明らかになれば、栄養素としてだけでなく疾患に対するビタミンKの役割が理解できる日が来るかもしれません。


キーワード:ビタミンKフィロキノンメナキノンメナジオ代謝変換


【注釈】

胆汁酸ミセル:脂溶性成分は体内に吸収されやすいように、肝臓や腸によって産生された胆汁酸などにより乳化され、ミセルが形成される。

安定同位体標識:天然には、例えば質量数12の炭素が約98.9%存在するが、質量数13の炭素が約1.07%存在し、同じ元素でも質量数の異なる同位体が存在する。このように、質量数の異なる同位体に化合物を構成する元素を置き換えて標識したものである。


【参考資料・文献】
1) 鎌尾 まや ビタミンKと骨 日本薬学会 環境・衛生部会ホームページ http://bukai.pharm.or.jp/bukai_kanei/topics/topics12.html

2) Holmes M. V. et al., The role of dietary vitamin K in the management of oral vitamin K antagonists. Blood Rev. 26, 1-14 (2012)

3) Schurgers, L. J. et al., Nutritional Intake of Vitamins K1 (Phylloquinone) and K2 (Menaquinone) in The Netherlands. J. Nutr. Environ. Med. 128, 785-788 (1999)

4) Mathers J. C. et al., Dietary modification of potential vitamin K supply from enteric bacterial menaquinones in rats. Br. J. Nutr. 63, 639-652 (1990)

5) Suttie J. W., The importance of menaquinones in human nutrition. Annu. Rev. Nutr. 15, 399-417 (1995)

6) Goncalves A. et al., Intestinal scavenger receptors are involved in vitamin K1 absorption. J. Biol. Chem., 289, 30743-30752 (2014)

7) Takada T. et al., NPC1L1 is a key regulator of intestinal vitamin K absorption and a modulator of warfarin therapy. Sci. Transl. Med. 7, 275ra23 (2015)

8) Thijssen H. H. M. et al., Vitamin K status in human tissues: tissue-specific accumulation of phylloquinone and menaquinone-4. Br. J. Nutr. 75, 121-127 (1996)

9) Ronden J. E. et al., Intestinal flora is not an intermediate in the phylloquinone-menaquinone-4 conversion in the rat. Biochim. Biophys. Acta, 1379, 69-75 (1998)

10) Martius C. et al., The constitution of vitamin K formed from methylnaphthoquinone in animal body. Biochem. Z., 331, 1-9 (1958)

11) Billeter M., Studies on the transformation of the K vitamins given orally by exchange of side chains and the role of intestinal bacteria therein. Biochem. Z., 340, 290-303 (1964)

12) Okano T. et al., Conversion of phylloquinone (Vitamin K1) into menaquinone-4 (Vitamin K2) in mice: two possible routes for menaquinone-4 accumulation in cerebra of mice. J. Biol. Chem., 283, 11270-11279 (2008)

13) Hirota Y. et al., Menadione (vitamin K3) is a catabolic product of oral phylloquinone (vitamin K1) in the intestine and a circulating precursor of tissue menaquinone-4 (vitamin K2) in rats. J. Biol. Chem., 288, 33071-33080 (2013)

14) Nakagawa K. et al., Identification of UBIAD1 as a novel human menaquinone-4 biosynthetic enzyme. Nature, 468, 117-121 (2010)

15) Nakagawa K. et al., Vitamin K2 biosynthetic enzyme, UBIAD1 is essential for embryonic development of mice. PLoS One, 9, e104078 (2014)

16) Xu Z. et al., UBIAD1 suppresses the proliferation of bladder carcinoma cells by regulating H-Ras intracellular trafficking via interaction with the C-terminal domain of H-Ras. Cell Death Dis., 9, 1170 (2018)

17) Vos M. et al., Vitamin K2 is a mitochondrial electron carrier that rescues pink1 deficiency. Science, 336, 1306-1310 (2012)

18) Hegarty JM. et al., UBIAD1-mediated vitamin K2 synthesis is required for vascular endothelial cell survival and development. Development, 140, 1713-1709 (2013)

19) Vos M. et al., Schnyder corneal dystrophy-associated UBIAD1 inhibits ER-associated degradation of HMG CoA reductase in mice. Elife, 8, e44396 (2019)


(2019年6月7日 掲載)

日本薬学会 環境・衛生部会

pageの上へ戻るボタン