環境・衛生薬学トピックス
ビタミンEの過剰摂取と骨粗しょう症
愛知学院大学薬学部 李辰竜
ビタミンEは脂溶性ビタミンの一つで、天然にはα-、β-、γ-、δ-トコフェロールとα-、β-、γ-、δ-トコトリエノールの8種類が存在しますが、ヒト体内で利用されるのは主にα-トコフェロールです。ビタミンEは抗酸化作用による体内脂質の酸化抑制効果を持ち、動脈硬化や老化防止に有効であると考えられています1)。ビタミンEは最も人気のある栄養補助食品(サプリメント)の一つであり、アメリカでは、特に、10%を超える成人が毎日ビタミンEのサプリメントを摂取しているという報告もあります2)。なお、これまでビタミンEによる過剰症はほとんどみられないとされてきました。しかしながら、近年、慶応大学などの研究グループ(竹田ら)によって、ビタミンEの過剰摂取が骨粗しょう症を引き起こす可能性が報告されました3)。骨粗しょう症は骨の密度が低下する症状であり、骨の変形、骨の痛みおよび骨折の原因であると考えられています。骨は、骨を作る「骨芽細胞」と骨を吸収する(いわゆる、骨を壊す)「破骨細胞」の働きにより維持されており、骨芽細胞と破骨細胞の働きのバランスが崩れることにより骨粗しょう症が引き起こされます4)。これまで、ビタミンKやビタミンDが骨の形成または維持に深く関わっていることはよく知られていました5)が、ビタミンEの骨形成への影響についてはよく分かっていませんでした。竹田らは、正常マウスまたは正常ラットに高濃度のビタミンEを含んだ餌(餌100
g当たり60 mgビタミンEを含有)を8週間投与した結果、ビタミンEを投与した群の骨量が減少し、骨粗しょう症のような現象が認められたことを報告しています3)。食品などから摂取された各種のビタミンEは肝臓に運ばれますが、8種類のビタミンEの中でα-トコフェロールが優先的にリポタンパク質に輸送され、血中へ放出されます。このα-トコフェロールの輸送に関与するα-トコフェロール輸送タンパク質(α-TTP)を欠損したマウスでは、正常マウスに比べて血中ビタミンE濃度が極めて低いだけでなく、興味深いことに、全身の骨量が増加することが示されました3)。さらに、ビタミンEによる骨密度の変化には破骨細胞が関与することも明らかになっています。破骨細胞は巨大化することによりその機能を発揮しますが、ビタミンEを投与したマウスでは、破骨細胞の巨大化が進み、破骨細胞による骨の吸収が亢進されます3)。一方、α-TTP欠損マウスでは破骨細胞の大きさが小さく、骨を吸収する能力もほとんど失われることが示されています3)。さらに、ビタミンEは破骨細胞の巨大化に必要なタンパク質の産生を誘導させることも確認されています3)。この研究成果は、ビタミンEを過剰摂取すると骨粗しょう症を引き起こす可能性があることを示唆するものですが、ビタミンEサプリメントの服用を直ちに中止する必要はありません。今回、マウスに投与したビタミンEの量をヒトの場合に換算しますと、体重60 kgの成人が毎日約1800 mgのビタミンEを飲むことに相当します。厚生労働省によると、ビタミンEの摂取目安量は6.5
~ 7.0 mg/日であり、耐容上限量は650
mg/日(70歳以上女性)です6)。今回の研究は、摂取目安量の服用は影響がないですが、高齢の女性など骨粗しょう症のリスクの高い人は、ビタミンEの過剰摂取には特に注意が必要であることを示唆していると考えられます。健康に良い効果が期待される栄養補助食品であっても、必要以上の摂取は逆に害になりえます。何事も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということです。【参考資料・文献】
1) | Azzi, A. et al. Specific cellular responses to α-tocopherol. J. Nutr. 130, 1649-1652 (2000). |
2) | Radimer, K. et al. Dietary supplement use by US adults: data from the National Health and Nutrition Examination Survey, 1999-2000. Am. J. Epidemol. 160, 339-349 (2004). |
3) | Fujita, K. et al. Vitamin E decreases bone mass by stimulating osteoclast fusion. Nat. Med. 18, 589-594 (2012). |
4) | Teitelbaum, S.L. & Ross, F.P. Genetic regulation of osteoclast development and function. Nat. Rev. Genet. 4, 638-649 (2003) |
5) | Cockayne, S. et al. Vitamin K and the prevention of fractures: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Arch. Intern. Med. 166, 1256-1261 (2006) |
6) | 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2010年版) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4k.pdf |
日本薬学会 環境・衛生部会