環境・衛生薬学トピックス
蔓延する危険ドラッグ
生体内には異物が取り込まれると、解毒するために薬物代謝酵素によって分解する「代謝反応」という機構が備わっています。α-PVPも様々な薬物代謝反応を生体内で受けることが分かっています5)。しかし、薬物代謝酵素の発現量は個体差があることから、解毒する速度がヒトによって異なるケースもあります。また、薬物代謝酵素により、逆に毒性をもった代謝物が生成することもあります。このため、デザイナードラッグの代謝物による毒性の変動についても評価しておく必要があると考えます。またこのような代謝物は血液や尿から検出されるため、分析装置を使ってこれらを同定することにより、指定薬物の使用の鑑定にも有用な情報となります。さらに複数のデザイナードラッグをより簡便に検知する目的で、簡易試験法の構築もなされています6,7)。アメリカでは、ヘロインのデザイナードラッグ(合成ヘロイン;1-methyl-4-phenyl-4-propionoxy-piperidine, MPPP)を注射したところパーキンソン病様症状を発症したという報告があります。これは、合成ヘロインに1-methy-4-phenyl-1,2,5,6-tetrahydropyridine (MPTP)と呼ばれる副生成物が含まれていたことが原因とされています8)。このことからもデザイナードラッグの毒性には、副生成物も寄与する可能性があります。
次々と合成されるデザイナードラッグは、ヒトにおける健康影響を考慮されていません。しかしながら、その毒性に関する研究データが少ないため、使用すればどのような健康被害が発生しうるかわからない状況にあります。行政や研究機関は、デザイナードラッグの危険性を薬物代謝酵素における代謝物や薬物に含有されている副生成物も含めて迅速に評価し、その情報を発信することで「危険ドラッグ」としての認識をさらに高めていく必要があると考えます。
キーワード: 危険ドラッグ、デザイナードラッグ、指定薬物
【参考資料・文献】
1)厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/topics/2014/02/tp0205-1.html
2)Matsumoto T, Tachimori H, Tanibuchi Y, Takano A, Wada K. Clinical features of patients with designer-drug-related disorder in Japan: a comparison with patients with methamphetamine- and hypnotic/anxiolytic-related disorders. Psychiatry Clin Neurosci. 68, 374-382 (2014)
3)Nagai H, Saka K, Nakajima M, Maeda H, Kuroda R, Igarashi A, Tsujimura-Ito T,Nara A, Komori M, Yoshida K. Sudden death after sustained restraint following self-administration of the designer drug α-pyrrolidinovalerophenone. Int J Cardiol. 172, 263-265 (2014)
4)Kaizaki A, Tanaka S, Numazawa S. New recreational drug 1-phenyl-2-(1-pyrrolidinyl)-1-pentanone (alpha-PVP) activates central nervous system via dopaminergic neuron. J Toxicol Sci. 39, 1-6 (2014)
5)Tyrkkö E, Pelander A, Ketola RA, Ojanperä I. In silico and in vitro metabolism studies support identification of designer drugs in human urine by liquid chromatography/quadrupole-time-of-flight mass spectrometry. Anal Bioanal Chem. 405, 6697-6709 (2013)
6)Rodrigues WC, Catbagan P, Rana S, Wang G, Moore C. Detection of synthetic cannabinoids in oral fluid using ELISA and LC-MS-MS. J Anal Toxicol. 37, 526-533 (2013)
7)Isaacs RC. A structure-reactivity relationship driven approach to the identification of a color test protocol for the presumptive indication of synthetic cannabimimetic drugs of abuse. Forensic Sci Int. 242C, 135-141 (2014)
8)Langston JW, Ballard P, Tetrud JW, Irwin I. Chronic Parkinsonism in humans due to a product of meperidine-analog synthesis. Science. 219, 979-980 (1983)
日本薬学会 環境・衛生部会