環境・衛生薬学トピックス

事故米が汚染していたカビ毒ってどんな毒?

岐阜薬科大学 中西 剛
 カビ毒は、文字通りカビ(真菌)で作られる毒性の2次代謝産物であり、マイコトキシンとも呼ばれています。カビ毒は通常加熱調理してもこわれないことから、食品を汚染していた場合には調理で取り除くことはできません。したがって、カビに汚染した食品は食べることができません。また一般にカビは穀物や豆類など炭水化物を豊富に含む食品に増殖しやすいことから、これらの食品ではカビ毒による汚染に注意する必要があります。カビに汚染した食品(カビ毒)を食べたりすると、食あたりや嘔吐、下痢などの症状をイメージされる方が多いと思いますが、カビ毒の作用はそれだけではありません。これ以外にもカビ毒摂取による症状としては、血液細胞の障害、血管や子宮平滑筋の収縮、肝機能障害、腎機能障害、神経障害などがあり、これらの症状はカビ毒の種類によって異なります。またカビ毒には発ガン性をもつものもあり、中でもアフラトキシンB1と呼ばれるカビ毒は、最も発ガン性が強いといわれています。アフラトキシンB1は、それ自体は発ガン性を持たないですが、肝臓で代謝されると発ガン性の高い物質に変換され、DNA損傷などを引き起こすことで発ガンリスクを高めます(イニシエーション作用)。アフラトキシンB1も他のカビ毒と同様に、劣悪な環境で保存された穀物や豆類などで汚染が認められることから、汚染の可能性のある輸入ナッツや香辛料などの食品については、厚生労働省の命令検査の対象となっており、輸入時に検疫所で汚染検査を行うことで汚染食品の流通を防止しています。
 さて最近、農薬やカビ毒に汚染された『事故米』と呼ばれる米が、食用として流通していた問題が話題となりました。事故米とは、国が買い取って保管、販売する政府米(外国産を含む)のうち、水にぬれ事故などによって発生したカビによるマイコトキシン汚染や基準値を超える残留農薬が検出されて食用に用いることができない米のことを指すそうです。食用としては使用されませんが、価格は食用加工用米の1/5~1/6程度であることから、用途を主に工業用のりなどの原材料に限定して流通しているようです。農水省(http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/syoryu/pdf/080922-01.pdf)によると2003年度~2008年9月までに計約7400t(内食用可能なもの661tを含む)が政府米の事故米として流通しており、うち約3500tが農薬であるメタミドホスに、9.5tがアフラトキシンB1に汚染されていたと発表されています。既に多くの事故米が食用として流通しており、消費されたと報道されていますが、幸いなことに現在のところ健康被害の報告はないようです。またメタミドホスについては、汚染濃度から考えても健康影響を与えるような濃度ではないと報道されています。一般に化学物質などの毒性は、体内に存在する量がある閾値を超えない限り毒性は発揮しないことから、たとえ基準値よりも高い量の化学物質(生体内への蓄積性が高い場合を除く)を摂取した場合でも、閾値を超えない程度の量であれば深刻な問題は起こらないと考えられます。しかしながらアフラトキシンB1のようなイニシエーション作用をもつ物質については毒性の閾値が存在しない(すなわち低濃度でも発ガンリスクが存在する)とされている上、このような毒物の影響は摂取して直ぐに起こるわけではありません。またアフラトキシンB1については、このような毒性の特性上、各国でも基準値が異なっているのが現状です。今回の問題で事故米中のアフラトキシンB1がどの程度健康に悪影響を与えるかは不明ですが、その安全性の判断には慎重な対応が望まれるところです。

日本薬学会 環境・衛生部会

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