環境・衛生薬学トピックス
食品中のカドミウム
自治医科大学 堀口 兵剛
カドミウムは環境中に広く分布している重金属です。カドミウムは環境中で生物濃縮の機序により特定の植物や動物に比較的高濃度に蓄積しますが、ヒトはそのような動植物を摂取することにより間接的に暴露されています。そのために、火山活動や採鉱活動によって特定地域が高度に汚染され、その地域住民にカドミウム中毒が発生したことも過去にありました。
ヒトのカドミウムに対する主な暴露経路には呼吸器と消化器の2つがあります。前者で重要なのは喫煙です。タバコの煙にはカドミウムが含まれている上に、肺からの吸収率も10 - 30%と高いのです。しかし、それよりも重要なのは後者であり、ヒトは主としてカドミウムを多く含む食品を摂取することによって体内に取り込んでいます。カドミウムの消化器からの吸収率は10%未満と低いのですが、その一方で1日の排泄量は体内蓄積量の0.01 - 0.02%と極めて少ないのです。従って、ヒトは食品中から少量のカドミウムを毎日少しずつ体内に取り込み続けることになり、結果的にその体内蓄積量は加齢とともに徐々に右肩上がりに上昇します。
消化器から吸収されたカドミウムは主に腎臓に蓄積し、それが高度になると尿細管の再吸収機能障害を引き起こします。尿細管は糸球体から濾過された血漿成分から必要な水分、蛋白質、糖、アミノ酸、ミネラルなどを再吸収する機能を持っておりますが、それが障害されるためにこれらの物質の尿中排泄量が増加するのです。この状態が長期間にわたって継続すると、カルシウムやリンなどの血漿中濃度を維持するために骨からこれらのミネラルが動員され続け、骨軟化症を発症します。これがイタイイタイ病ですが、今日の日本人のカドミウム暴露レベルではまず発生することはないと考えられます。
カドミウムを多く含む食品の中で日本人にとって最も重要なのは米です。稲は土壌中のカドミウムを吸収しやすい性質を持つ上に、米は日本人の主食であるため、日本人の全カドミウム摂取の約半分が米由来なのです。ところで、我が国の米中カドミウムの基準値は昭和45年以来実質的に0.4 ppmとされておりましたが(食品衛生法上では1 ppm)、近年その妥当性が証明され、国際的にも平成18年にコーデックス委員会(国際食品規格等を作成する政府間機関)で同基準値が採択されました。従って、スーパーマーケットなどで販売されている米は、この基準値以下のカドミウム濃度であることが確認されていると考えられるため、通常の摂取量ではまず心配は要りません。しかし、農家からの直接的なルートによる米は、多くの場合カドミウム濃度が不明であるため、注意が必要かもしれません。
米以外でカドミウム濃度が高い食品として、大豆、オクラ、海藻類、魚介類(特にその内蔵)、動物の内蔵(レバーなど)、などが挙げられます。しかし、これらの摂取量は主食の米よりもはるかに少ないため、やはり通常の摂取量であれば心配はないと考えられます。
【参考資料】
1) |
農林水産省ホームページ
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/kizyunti/index.html |
2) |
内閣府食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/senmon/osen/index.html |
日本薬学会 環境・衛生部会