環境・衛生薬学トピックス
ビタミンKと骨
神戸薬科大学 鎌尾 まや
ビタミンKは血液凝固に必要な栄養素であり、タンパク質中のグルタミン酸残基をγ-カルボキシ化(Gla化)する反応に必要な補酵素として働きます。ビタミンKが不足すると、肝臓における血液凝固因子のGla化が低下し、出血傾向を来たします。一方、骨にもオステオカルシン、マトリックスGlaタンパク質などビタミンK依存的にGla化されるタンパク質が存在しており、ビタミンKは骨の健康にも重要な働きを担っています。我が国では、ビタミンKの一種であるメナキノン-4(メナテトレノン)が骨粗鬆症治療薬として使用されており、骨量低下防止効果、骨折予防効果が認められています。また、血液中のビタミンK濃度が低い高齢女性や、Gla化されていないオステオカルシンの血中濃度が高い高齢女性において、大腿骨頚部骨折や脊椎圧迫骨折の頻度が高いことが示されています1。さらに、食事からのビタミンK摂取量が少ない高齢者は大腿骨頚部の骨折頻度が高まるとの報告2もあり、ビタミンK欠乏は骨の脆弱化を招き、骨折のリスクファクターになり得ると考えられます。抗凝血薬であるワーファリン(ビタミンKの抑制剤)服用時や新生児を除き、血液凝固系に必要な量のビタミンKが不足することは通常ありません。しかし、骨組織では血液凝固系に比べて多くのビタミンKが必要であると考えられており、骨の健康を維持するためにはより多くのビタミンKを摂取することが望ましいといえます。
それでは、ビタミンKはどのような食品に多く含まれるのでしょうか?天然のビタミンKには植物由来でフィチル側鎖をもつビタミンK1(フィロキノン)と動物・微生物由来でイソプレニル側鎖をもつビタミンK2(メナキノン類)があります。ビタミンK1はほうれん草、こまつな、春菊、ブロッコリーなどの緑色野菜やのり、ひじきなどの海藻類、茶葉に豊富に含まれており、ビタミンKの主要な摂取源となります3。一方、ビタミンK2のうち、食品から比較的多く摂取されるものは側鎖のイソプレン単位が4個のメナキノン-4および7個のメナキノン-7です。メナキノン-4は鶏肉などの獣肉類や卵に含まれており、メナキノン-7は納豆に非常に多く含まれています。興味深いことに、納豆摂取量が多くメナキノン-7の血中濃度が高い東日本の高齢女性では西日本に比べて大腿骨頚部骨折が少ないという調査結果4が出ており、納豆摂取が血中ビタミンK濃度を高めることにより、骨粗鬆症の進展に対して予防的に働いている可能性があります。一方、ビタミンKは抗凝血薬のワーファリンの働きを打ち消す作用があるため、ワーファリン服用中の方はビタミンKが多量に含まれる食品(納豆など)の摂取を控える必要があります。日本人の食事摂取基準(2010年版)5では出血予防に有効なビタミンK摂取目安量として、成人男性75 mg/日、成人女性60~65 mg/日が設定されています。一方、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(2006年版)6では、骨粗鬆症治療のために推奨されるビタミンK摂取目標量を250~300 mg/日としており、骨粗鬆症予防の観点からもこの程度のビタミンK摂取が望ましいとと考えられます。これは、納豆なら1パック、ほうれん草なら2~4株に相当する量です。
ビタミンKの骨における作用には、前述のタンパク質のGla化を介するもの以外に、核内受容体SXR(steroid and xenobiotic receptor)を介して骨代謝に関わる遺伝子の発現を誘導することがあげられます7。このSXRを介した作用はメナキノン-4特異的なものであり、骨をはじめとする組織中には主に食物から摂取されるフィロキノンではなくメナキノン-4が高濃度に存在しています。最近の研究ではフィロキノンが体内でメナキノン-4に変換されることが示されており8、ビタミンKの生理作用を説明する上でメナキノン-4が重要な役割を担うと考えられます。
【参考資料・文献】
1) | Feskanich D. et al.,Vitamin K intake and hip fractures in women: a prospective study. Am.J. Clin.Nutr. 69, 74-79 (1999) |
2) | Booth S.L. et al., Dietary vitamin K intakes are associated with hip fracture but not with bone mineral density in elderly men and women. Am. J. Clin. Nutr. 71, 1201-1208 (2000) |
3) | Kamao M. et al., Vitamin K content of foods and dietary vitamin K intake in Japanese young women. J. Nutr. Sci Vitaminol. 53, 464-470 (2007) |
4) | Kaneki M. et al., Japanese fermented soybean food as the major determinant of the large geographic difference in circulating levels of vitamin K2: possible implication for hip-fracture risk. Nutrition 17, 315-321 (2001) |
5) | 日本人の食事摂取基準(2010年版)厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書、第一出版 |
6) | 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編、ライフサイエンス出版 |
7) | Tabb M. M. et al., Vitamin K2 regulation of bone homeostasis is mediated by the steroid and xenobiotic receptor SXR. J. Biol. Chem. 278, 43919-43927 (2003) |
8) | Okano T. et al., Conversion of phylloquinone (vitamin K1) into menaquinone-4 (vitamin K2) in mice. J. Biol. Chem. 283, 11270-11279 (2008) |
9) |
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/sessyu-kijun.html |
10) |
医療情報提供サービスMinds
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0046/0046_ContentsTop.html |
日本薬学会 環境・衛生部会