環境・衛生薬学トピックス

細菌性髄膜炎のワクチン ~ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン~

徳島文理 藤代 瞳
 細菌性髄膜炎とは、細菌が脳や脊髄を包む髄膜の奥まで入り込んで起こる病気です。細菌性髄膜炎の原因の約60%はヘモフィス-インフルエンザ菌b型(ヒブ)、約30%が肺炎球菌で、この2つの菌が細菌性髄膜炎の原因の約90%を占めています。ヒブ肺炎球菌も飛沫感染といってヒトからヒトへ咳やくしゃみを介して感染します。これらの細菌は血液中に入り、全身に広がり、髄膜炎、肺炎、咽頭炎など子供の命に関わる病気を引き起こすことがあります。特に、乳幼児は抵抗力が弱いため、5歳未満児が髄膜炎になりやすく、現在日本ではヒブによる髄膜炎は年間約400例、肺炎球菌による髄膜炎が150例程度発症していると推計されています。この病気の問題点は、風邪と症状が似ており、早い段階で診断することが難しく、かかると治療が困難で重症化しやすい点です。知能障害、難聴などの重い後遺症が残ってしまうことがあり、死に至ることもあります。乳幼児の細菌性髄膜炎のうち、5-10%が死亡、10-20%が後遺症を残すと推定されています。
 現在世界約100カ国でヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンが接種されています。日本では、欧米に比べて20-30年遅れを取ってしまいましたが、2007年1月にヒブワクチン(商品名;アクトヒブ)、2009年10月に小児用肺炎球菌ワクチン(商品名;プレベナー水性懸濁皮下注)の製造販売が承認されました。この2つのワクチンは細菌の細胞外膜に含まれるポリリボシルリビトールリン酸(PRP)とキャリア蛋白を結合させたものを抗原としたワクチンです。ヒブにも肺炎球菌にもサブタイプが多数存在し、このワクチンは全ての型に有効ではありませんが、多くの国々での使用状況や実績をみると、十分な予防効果が期待できるものと考えられます。
 定期接種を実施している国では細菌性髄膜炎の発症率の低下が報告されています。WHOはヒブワクチン(2006年)および肺炎球菌ワクチン(2007年)を世界中で定期接種にするように推奨を出しました。それだけ各国でヒブ肺炎球菌による病気の被害が多いためです。例えば、アメリカではワクチンが2000年に導入され、2006年生まれの子供へのワクチン接種率は93%に達しています。その結果、ワクチン導入前には1年間で10万人当たり81.9人発生していた患者数が0.4人にまで減少しました。細菌性髄膜炎の発症頻度はそれほど高くありませんが、発症した際の重篤性を考慮すると、広く免疫を行き渡らせるために日本国内でも定期接種の採用を求める動きが起きています。
 近年、薬剤耐性を獲得した細菌が増加しており、抗生物質による治療困難な症例が増加しているため、ワクチンの普及によって予防に努めることが大切です。導入した他の国ではすでに、細菌性髄膜炎によって死亡したり、後遺症が残った子供は激減しています。しかし、日本では、現在もこの疾患で命を落したり、後遺症が残る子供たちの数は減少しておらず、その数は累積されています。このように効果の高いことが判明しているワクチンの導入は、抗菌剤の適正使用につながり、医療費の軽減にもつながります。また乳幼児を持つ親の心理的負担を減少させることも期待されています。
 日本では、2010年11月の国会でヒブ肺炎球菌ワクチンの無料化を目指すことが決まりました。しかし、これは定期接種として無料化にすることが決まったのではなく、2010年~2011年度に限って無料にするというものでした。そんな矢先の2011年3月にヒブ肺炎球菌ワクチンを含む複数のワクチン同時接種後の乳幼児7例の死亡が報告され、接種が一時的に見合わせられました。その後専門家会議が行われ、これらのワクチンは広く海外でも使用されており、両ワクチンともに10万人接種に対して死亡例の報告頻度は約0.2人という諸外国で見られる死亡頻度と大きな違いは見られず、現段階ではいずれもワクチン接種との直接的な因果関係は認められないという評価が出されています。今回報告された死亡例はいずれも他のワクチンとの同時接種によるものでしたが、同時接種によって副作用が増加するという報告もないようです。厚生労働省は2011年4月1日から接種を再開させました。
 接種対象児が接種の機会を逃すことのないように定期的接種の推進が期待されますが、接種対象児を持つ親は最新情報に注意することが必要不可欠です。またヒブ肺炎球菌ワクチンは、子どもの体調をよく確認し、接種を受けるのに適した時期を医師と相談することが推奨されます。

(2011年4月27日現在)



【参考資料・文献】
1) 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
2) 国立感染症研究所感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/362/inx362-j.html
3) 第一三共株式会社
http://www.daiichisankyo.co.jp/csr/2010/medical/vaccine/index.html
4) プレベナー水性懸濁皮下注
http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058322.pdf

日本薬学会 環境・衛生部会

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