環境・衛生薬学トピックス
メタボリックシンドロームと概日リズム
これらの生活習慣および生体機能の概日リズムは、BMAL1およびCLOCK遺伝子などの時計構成分子によって精密に制御されている。近年、時計遺伝子の多型(遺伝子を構成しているDNA配列の違い(個人差))および時計遺伝子欠損マウスなどの解析を通じて、概日リズムを制御する時計遺伝子とメタボリックシンドローム発症との関連性を示唆する報告が相次いでなされている。ヒトでは時計遺伝子の多型が代謝性疾患の有病率と関連することが明らかになっている。例えば、BMAL1遺伝子多型は、糖尿病および高血圧の発症に深く関与し4)、またCLOCK遺伝子多型は肥満、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝との関連性がそれぞれ報告されている5)。さらに動物実験において、Bmal1遺伝子欠損マウスでは概日リズム異常に加え、インスリン分泌不全ならびに脂質異常症などを呈する6)。Clock変異マウスにおいては概日リズム異常に加え、肥満およびインスリン分泌不全を呈することが報告されている7)。これらの結果は、概日リズム制御を司る時計遺伝子の機能障害が代謝性疾患の一因になることを強く示唆している。今後、これらの時計遺伝子の機能障害による概日リズム異常が、どのような機序でメタボリックシンドローム発症を引き起こすかより詳細な分子メカニズムを明らかにすることで、そのリスクを軽減しうる有効な治療法の開発とともに、肥満や代謝性疾患の予防ならびに生命予後の改善につながることを期待したい。
キーワード:メタボリックシンドローム、概日リズム、概日リズム異常
【参考資料・文献】
1)Sato-Mito N et al., Freshmen in dietetic courses study II group. The midpoint of sleep is associated with dietary intake and dietary behavior among young Japanese women. Sleep Med 4, 289-294.(2011)
2)Romon M et al., Circadian variation of diet-induced thermogenesis. Am J Clin Nutr 57, 476-480. (1993)
3)Scale EW et al., Human circadian rhythms in temperature, trace metal and blood variable. J Appl Physiol 65, 1840-1846. (1988)
4)Woon PY et al., Aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator-like (BMAL1) is associated with susceptibility to hypertension and type 2 diabetes. Proc Natl Acad Sci USA 104, 14412-14417. (2007)
5)Scott EM et al., Association between polymorphisms in the Clock gene, obesity and the metabolic syndrome in man. Int J Obes(Lond) 32, 658-662.(2008)
6)Shimba S et al., Deficient of a clock gene, brain and muscle Arnt-like protein-1(BMAL1) induces dyslipidemia and ectopic fat formation. Plos One 6, e25231.(2011)
7)Turek FW et al., Obesity and metabolic syndrome in circadian Clock mutant mice. Science 308, 1043-1045. (2005)
日本薬学会 環境・衛生部会