環境・衛生薬学トピックス
健康食品として流通しているレスベラトロールについて
現在、レスベラトロールによるヒトでの健康被害は報告されていません。スイスのDSM社が定義したレスベラトロールの健康に悪影響がないと推定される一日摂取許容量(ADI)注)は、体重60 kg当たり1日450 mgです5)。一方、低用量で観察される軽微な変化も考慮して低い値を定義している研究グループもあります(ADIに換算して120 mg/日/60 kg体重)5, 6)。しかしレスベラトロールは、赤ワイン1杯に多いもので1 mg程度しか含まれず、多いといわれるヨーロッパ人の1日摂取量もわずか2 mgと、食品中の量が健康に悪影響を与えることは少なそうです。一方、日本国内外で販売されているレスベラトロールのサプリメントは、1日量1 mg以下から500 mg以上のものまで見られ、上述のADIを超える場合もあります。健常人を対象にした臨床試験で、毎日高容量(2.5 あるいは5 g)のレスベラトロールを摂取した場合、数日後に腹痛や下痢などの症状が現れることが確認されています7)。また長期間過剰摂取したラット、イヌやウサギの腎臓と膀胱に障害が起こることが分かっています5)。さらに骨髄腫を対象とした臨床試験で、レスベラトロールを1日5 gずつ摂取した患者24人中5人に腎障害がみられました8)。腎障害は、骨髄腫患者によくみられる合併症ですが、レスベラトロールがこれを悪化させる可能性が示唆されたため臨床試験は中止されました。レスベラトロールは、腸管から高い割合で吸収される一方、そのほとんどはすぐ代謝されてしまいますが9)、心筋梗塞患者の血管機能や血液組成が、1日10 mgを3ヶ月間摂取した場合に改善した10)など、少量でも有益な効果が認められています。長期間多量に摂取すれば良いというものではなく、また腎臓に疾患を持つ方は注意が必要かもしれません。
レスベラトロールは、スチルベン骨格という化学構造を有するため女性ホルモンあるいは抗女性ホルモン様作用が疑われています3, 11)。スチルベン骨格を持つ代表的な化合物にジエチルスチルベステロール(合成女性ホルモン)があり、服用した女性に乳がんや卵巣がんが、服用した妊婦から生まれた子供に膣がんや性器形成不全が多発したことから使用が中止されました12)レスベラトロールによる発がん性や生殖・発生毒性は、今のところ動物実験では報告されていませんが5, 6)、乳がんや女性器がん、子宮内膜症などの女性ホルモン感受性疾患がある場合や妊婦あるいは授乳婦は、レスベラトロールの多量摂取を控えた方がよいでしょう。
レスベラトロールは、臨床研究において1日1 gを4週間摂取した被験者の薬物代謝酵素に影響(第I相酵素CYP1A2の活性上昇、CYP3A4、CYP2D6、CYP2C9の活性抑制および第II相酵素GST-π とUGT1A1の活性上昇)を与えたことが報告され13)、薬の効き目や副作用に影響を与える可能性が指摘されています。薬物治療等を受ける方は、レスベラトロールの摂取に関して医師または薬剤師に相談した方がよいでしょう。
レスベラトロールの多くは、ブドウなどから抽出されたものですが、海外ではイタドリという植物から抽出されたものも流通しています。イタドリの根茎は、コジョウコン(虎杖根)という生薬の医薬品原料なので、日本では食品の原料としては使えません。レスベラトロールの純度によっては緩下作用などの生薬の効果が発現するかもしれません。その他にもレスベラトロールの含量が多いという理由で、日本では馴染みのない植物から抽出されたものも数多くあり、原材料の表示や含有量についてよく確認したほうがよいでしょう。
健康食品の正しい利用法については、厚生労働省からパンフレットが出ています14)。摂取する前に本当に必要なものか、安全なものかよく考えて使用しましょう。
注)薬学用語解説をご参照ください(http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi)
一日許容摂取量 - acceptable daily intake,ADI
ヒトが食品中に含まれる物質を一生涯にわたって毎日摂取し続けても、現時点のあらゆる知見からみて、認められる健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量を一日摂取許容量(ADI: acceptable daily intake)といい、「mg/日/kg体重」で表す。
参考資料・文献
1) Howitz KT et al., Small molecule activators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiae lifespan. Nature, 425, 191-196. (2003)
2) Beher D et al., Resveratrol is not a direct activator of SIRT1 enzyme activity. Chem Biol Drug Des, 74, 619-624. (2009)
3) Yu W et al., Cellular and molecular effects of resveratrol in health and disease. J Cell Biochem, 113, 752-759. (2012)
4) Patel KR et al., Clinical trials of resveratrol. Ann N Y Acad Sci, 1215, 161-169. (2011)
5) Edwards JA et al., Safety of resveratrol with examples for high purity, trans-resveratrol, resVida((R)). Ann N Y Acad Sci, 1215, 131-137. (2011)
6) Johnson WD et al., Subchronic oral toxicity and cardiovascular safety pharmacology studies of resveratrol, a naturally occurring polyphenol with cancer preventive activity. Food Chem Toxicol, 49, 3319-3327. (2011)
7) Brown VA et al., Repeat dose study of the cancer chemopreventive agent resveratrol in healthy volunteers: safety, pharmacokinetics, and effect on the insulin-like growth factor axis. Cancer Res, 70, 9003-9011. (2010)
8) Popat R et al., A phase 2 study of SRT501 (resveratrol) with bortezomib for patients with relapsed and or refractory multiple myeloma. Br J Haematol, 160, 714-717. (2013)
9) Planas JM et al., The bioavailability and distribution of trans-resveratrol are constrained by ABC transporters. Arch Biochem Biophys, 527, 67-73. (2012)
10) Magyar K et al., Cardioprotection by resveratrol: A human clinical trial in patients with stable coronary artery disease. Clin Hemorheol Microcirc, 50, 179-187. (2012)
11) Vang O et al., What is new for an old molecule? Systematic review and recommendations on the use of resveratrol. PLoS One, 6, e19881. (2011)
12) Schrager S et al., Diethylstilbestrol exposure. Am Fam Physician, 69, 2395-2400. (2004)
13) Detampel P et al., Drug interaction potential of resveratrol. Drug Metab Rev, 44, 253-265. (2012)
14) 厚生労働省 健康食品の正しい利用法http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/kenkou_shokuhin00.pdf
日本薬学会 環境・衛生部会