環境・衛生薬学トピックス

蔓延する危険ドラッグ

広島大学大学院医歯薬保健学研究院 佐能 正剛
 薬物乱用の根絶を図るため、日本では、薬事法に基づき、中枢神経系の興奮もしくは抑制または幻覚の作用を有し、使用した場合に健康被害が発生する恐れのある1300以上の物質を「指定薬物」として指定し、規制を行っています。指定薬物はその輸入、製造、販売、授与、販売もしくは授与目的での貯蔵または陳列、所持、使用、購入、譲り受けが禁止されています1)。しかしながら、近年、合法ハーブ、合法アロマリキッドと称して販売されている薬物を容易に入手、使用し急性毒性や依存症候群といった精神症状や交通事故などを引き起こす事例も頻発し、社会問題となっています。これらは、規制の有無を問わず使用することが危ない物質であることを明確に示すため、「危険ドラッグ」と呼ばれるようになりました。 危険ドラッグに含まれる成分は、麻薬や覚せい剤の化学構造の一部を改変させて作られた「デザイナードラッグ」であり、合成カンナビノイド系、トリプタミン系、カチノン系、フェネチルアミン系、ピペラジン系化合物が知られています。Matsumotoらの報告2)では、デザイナードラッグの使用者(126例)の平均年齢は27.9歳と若く、「刺激追及・好奇心(50.0%)」が最も多い使用理由となっています。また「精神および行動の障害」に関する診断(ICD-10)では、依存性症候群(58.7%)、精神病性障害(45.2%)に多く分類されました。 カチノン系化合物であるα-PVP(平成25年、指定薬物から麻薬指定)の使用によって興奮状態であったため拘束され、その後蘇生措置がなされたものの亡くなられたある20代男性の事例では、死後病理解剖の結果から心臓突然死が原因であることが分かりました。血清中からはα-PVPが約400ng/mLの濃度で検出され、濃度と毒性の関係は不明なものの、これが引き金となった可能性もあります3)。また、マウスにα-PVPを投与した実験では、脳内の神経伝達物質であるドパミンの放出量が増えたことに基づき、マウスの自発運動量の有意な増加が観察されました4)。しかしながら、ヒトへの健康影響に関するメカニズムの報告はまだ少ないため、今後のさらなる解明が求められています。
 生体内には異物が取り込まれると、解毒するために薬物代謝酵素によって分解する「代謝反応」という機構が備わっています。α-PVPも様々な薬物代謝反応を生体内で受けることが分かっています5)。しかし、薬物代謝酵素の発現量は個体差があることから、解毒する速度がヒトによって異なるケースもあります。また、薬物代謝酵素により、逆に毒性をもった代謝物が生成することもあります。このため、デザイナードラッグの代謝物による毒性の変動についても評価しておく必要があると考えます。またこのような代謝物は血液や尿から検出されるため、分析装置を使ってこれらを同定することにより、指定薬物の使用の鑑定にも有用な情報となります。さらに複数のデザイナードラッグをより簡便に検知する目的で、簡易試験法の構築もなされています6,7)。アメリカでは、ヘロインのデザイナードラッグ(合成ヘロイン;1-methyl-4-phenyl-4-propionoxy-piperidine, MPPP)を注射したところパーキンソン病様症状を発症したという報告があります。これは、合成ヘロインに1-methy-4-phenyl-1,2,5,6-tetrahydropyridine (MPTP)と呼ばれる副生成物が含まれていたことが原因とされています8)。このことからもデザイナードラッグの毒性には、副生成物も寄与する可能性があります。
 次々と合成されるデザイナードラッグは、ヒトにおける健康影響を考慮されていません。しかしながら、その毒性に関する研究データが少ないため、使用すればどのような健康被害が発生しうるかわからない状況にあります。行政や研究機関は、デザイナードラッグの危険性を薬物代謝酵素における代謝物や薬物に含有されている副生成物も含めて迅速に評価し、その情報を発信することで「危険ドラッグ」としての認識をさらに高めていく必要があると考えます。

キーワード: 危険ドラッグ、デザイナードラッグ、指定薬物

【参考資料・文献】

1)厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/topics/2014/02/tp0205-1.html

2)Matsumoto T, Tachimori H, Tanibuchi Y, Takano A, Wada K. Clinical features of patients with designer-drug-related disorder in Japan: a comparison with patients with methamphetamine- and hypnotic/anxiolytic-related disorders. Psychiatry Clin Neurosci. 68, 374-382 (2014)

3)Nagai H, Saka K, Nakajima M, Maeda H, Kuroda R, Igarashi A, Tsujimura-Ito T,Nara A, Komori M, Yoshida K. Sudden death after sustained restraint following self-administration of the designer drug α-pyrrolidinovalerophenone. Int J Cardiol. 172, 263-265 (2014)

4)Kaizaki A, Tanaka S, Numazawa S. New recreational drug 1-phenyl-2-(1-pyrrolidinyl)-1-pentanone (alpha-PVP) activates central nervous system via dopaminergic neuron. J Toxicol Sci. 39, 1-6 (2014)

5)Tyrkkö E, Pelander A, Ketola RA, Ojanperä I. In silico and in vitro metabolism studies support identification of designer drugs in human urine by liquid chromatography/quadrupole-time-of-flight mass spectrometry. Anal Bioanal Chem. 405, 6697-6709 (2013)

6)Rodrigues WC, Catbagan P, Rana S, Wang G, Moore C. Detection of synthetic cannabinoids in oral fluid using ELISA and LC-MS-MS. J Anal Toxicol. 37, 526-533 (2013)

7)Isaacs RC. A structure-reactivity relationship driven approach to the identification of a color test protocol for the presumptive indication of synthetic cannabimimetic drugs of abuse. Forensic Sci Int. 242C, 135-141 (2014)

8)Langston JW, Ballard P, Tetrud JW, Irwin I. Chronic Parkinsonism in humans due to a product of meperidine-analog synthesis. Science. 219, 979-980 (1983)

日本薬学会 環境・衛生部会

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