環境・衛生薬学トピックス

海を漂う汚染物質の運び屋?〜マイクロプラスチック問題〜

広島国際大学薬学部 環境毒物代謝学研究室 平尾雅代

 1930年代から商業的な発展を遂げてきたプラスチックは、現在、世界で年間約3億3500万tが生産されており1)、20年後には倍増すると予想されています2)。一方、プラスチックのリサイクル率は紙や鉄鋼に比べて極めて低く、毎年少なくとも800万tものプラスチックが海に流出しています3, 4)。海に流出したプラスチックは漂流する間に劣化と破砕を重ねながら次第に小さくなっていきます。そして直径5 mm未満となったプラスチック片は「マイクロプラスチック」と呼ばれています5)。このように自然環境中で微細化したプラスチックの他に、製造時に微細プラスチックとして作られたスクラブ剤に利用されるマイクロビーズ等もマイクロプラスチックに含まれます。これらのマイクロプラスチックの量は年々増加し続けており、世界中で緊急な解決が求められる国際的な環境問題となっています。

 プラスチックによる海洋汚染問題については、1970年代初頭には既に見つかっていました6)。しかし、50年近くたった現在でもプラスチックによる海洋汚染問題は解決されるどころかむしろ深刻化しています。海洋へ流出したプラスチックごみの発生量を国別に推計した結果、1〜4位を東アジア・東南アジアが占めることが報告されました7)。海洋に流出したプラスチックは漂流を続け、太平洋沿岸に漂着します。2016年に太平洋におけるマイクロプラスチックの浮遊量が調査された結果、マイクロプラスチックの浮遊量は特に北半球に多く、8月の日本周辺ではその重量濃度 (単位体積当たりの物質重量) が500 g/m3を超える海域もあり、南半球 (10 g/m3以下) よりもはるかに高いことが示されました。さらに、今後も海洋へのプラスチックごみの流出が増加し続けた場合は、2030年には約2倍、2060年には約4倍になることが予測されました8)

 マイクロプラスチックは疎水性の高い化学物質 (汚染物質) を吸着しやすいプラスチックとしての性質に加えて、微細化した結果プラスチックよりも表面積が大きくなり、汚染物質をより吸着しやすくなります。そのため、マイクロプラスチックは海を漂う間に有害な汚染物質を吸着し、誤って食べた海洋生物に汚染物質を摂取させ、生体に悪影響を及ぼす危険性があります。実際に浜辺から回収されたマイクロプラスチックにポリ塩化ビフェニル (polychlorinated biphenyls: PCBs) や多環芳香族炭化水素 (polycyclic aromatic hydrocarbons: PAHs) 9)、有機塩素系殺虫剤 (organochlorine pesticides: OCPs) のような残留性有機汚染物質 (persistent organic pollutants: POPs) (注) が吸着していたことが報告されています10)マイクロプラスチックの表面に吸着するPOPsの濃度レベルは、海水中のPOPsと比較した場合、最大で100万倍も高くなることがあります11)。さらに、魚や海鳥などのモデル生物を用いた実験から、POPsを吸着させたマイクロプラスチックの摂取によりPOPsが生体内に蓄積することが見出されています12, 13)。一方で、マイクロプラスチック摂取はモデル生物内へのPOPsの蓄積に影響はないという報告も散見されます14, 15)。2010年頃から汚染物質が吸着したマイクロプラスチックによる生体影響に関する研究が急速に発展してきましたが、現在でも未だにその生体影響については不明な部分が多いままとなっています。

 また、大きなプラスチックと同様にマイクロプラスチックも消化管の閉塞や損傷を引き起こします。さらに、ムラサキイガイにマイクロプラスチックを摂取させた結果、腸管から循環器系へマイクロプラスチックが取り込まれたという報告もあり16)、循環器系に取り込まれたマイクロプラスチック自体が物理的に悪影響を示す可能性もあります。そのため、マイクロプラスチックによる生体影響については、マイクロプラスチックに吸着した汚染物質による影響とマイクロプラスチック自体の物理的な影響の両方を解明することが重要となっています。

 東京湾で採取されたイワシの消化管内からマイクロプラスチックが検出されています17)。また、2018年10月に日本を含む8カ国の人の糞便中からマイクロプラスチックが検出されたという非常に衝撃的な報告がなされ18)、新聞各社でも取り上げらました。これは予備的検討の結果ではありますが、海洋生物だけでなく人にもマイクロプラスチックの影響は迫ってきていることが明らかとなりました。

 現在はマイクロプラスチックを効率良く回収できる方法がなく、マイクロプラスチックおよびマイクロプラスチックに吸着した汚染物質の摂取とその悪影響に注目が集まっています。しかし、マイクロプラスチックPOPsなどの汚染物質を吸着することにより、海洋中の汚染物質の濃度を低下させる可能性もあります19)。そのため、マイクロプラスチックを効率良く回収する方法の開発が進めば、汚染物質を吸着する性質を活かして海洋の汚染物質の回収に利用される日が来るかもしれません。一方で、マイクロプラスチックの増加を止めるためにも不要なプラスチックごみを出さない、そして不適切な廃棄を行わないように心がけることが大切です。

キーワード:マイクロプラスチック汚染物質POPs

【注釈】
 POPsは難分解性、高蓄積性、長距離移動性、有害性の全ての性質をもつ化学物質の総称です。POPsによる有害性としては発がん性 (がんを誘発する) や変異原性 (遺伝子に変化を引き起こす)、内分泌かく乱作用 (ホルモン作用に影響を与える) などが挙げられます。
環境省 POPsパンプレット:https://www.env.go.jp/chemi/pops/pamph27/pdf/mat00.pdf

【参考資料・文献】
1) Plastics Europe. Plastics - the facts 2017. Assoc. Plast. Manuf. 16 (2017)
https://www.issuelab.org/resources/30796/30796.pdf

2) MacArthur DE, Waughray D, Stuchtey MR. The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics. World Economic Forum 2016.
https://jp.weforum.org/reports/the-new-plastics-economy-rethinking-the-future-of-plastics

3) UNEP, in: Marine Plastic Debris and Mi-croplastics. 23, 1-2 (2016)
http://wedocs.unep.org/handle/20.500.11822/7720

4) Stockholm Convention. UNEP, Marine Plastic Litter and Microplastics. Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants (2018)
http://www.basel.int/Portals/0/download.aspx?d=UNEP-POPS-PUB-LEAFLET-Brochure-MarineLitter-2018.English.pdf

5) Thompson RC, Olsen Y, Mitchell RP, Davis A, Rowland SJ, John AW, McGonigle D, Russell AE. Lost at sea: where is all the plastic? Science 304, 838 (2004)

6) Carpenter EJ, Anderson SJ, Harvey GR, Miklas HP, Peck BB. Polystyrene spherules in coastal waters. Science 178, 749-750 (1972)

7) Carpenter EJ, Anderson SJ, Harvey GR, Miklas HP, Peck BB. Polystyrene spherules in coastal waters. Science 178, 749-750 (1972)

8) Isobe A, Iwasaki S, Uchida K, Tokai T. Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066. Nat. Commun. 10, 417 (2019)

9) 亀田貴之, 我々の健康を脅かす大気汚染物質-多環芳香族炭化水素(PAH)類の発生と動態-, 日本薬学会環境・衛生部会 環境・衛生薬学トピックス, 2011年3月14日
http://bukai.pharm.or.jp/bukai_kanei/topics/topics19.html

10) Frias JP, Sobral P, Ferreira AM. Organic pollutants in microplastics from two beaches of the Portuguese coast. Mar. Pollut. Bull. 60, 1988-1992 (2010)

11) Mato Y, Isobe T, Takada H, Kanehiro H, Ohtake C, Kaminuma T. Plastic resin pellets as a transport medium for toxic chemicals in the marine environment. Environ. Sci. Technol. 35, 318-324. (2001)

12) Teuten EL, Saquing JM, Knappe DR, Barlaz MA, Jonsson S, Bjorn A, Rowland SJ, Thompson RC, Galloway TS, Yamashita R, Ochi D, Watanuki Y, Moore C, Viet PH, Tana TS, Prudente M, Boonyatumanond R, Zakaria MP, Akkhavong K, Ogata Y, Hirai H, Iwasa S, Mizukawa K, Hagino Y, Imamura A, Saha M, Takada H. Transport and release of chemicals from plastics to the environment and to wildlife. Philos. Trans. R. Soc. Lond B Biol. Sci. 364, 2027-2045 (2009)

13) Batel A, Borchert F, Reinwald H, Erdinger L, Braunbeck T. Microplastic accumulation patterns and transfer of benzo[a]pyrene to adult zebrafish (Danio rerio) gills and zebrafish embryos. Environ. Pollut. 235, 918-930 (2018)

14) Devriese LI, De Witte B, Vethaak AD, Hostens K, Leslie HA. Bioaccumulation of PCBs from microplastics in Norway lobster (Nephrops norvegicus): An experimental study. Chemosphere 186, 10-16 (2017)

15) Grigorakis S, Drouillard KG. Effect of microplastic amendment to food on diet assimilation efficiencies of PCBs by fish. Environ. Sci. Technol. 52, 10796-10802 (2018)

16) Browne MA, Dissanayake A, Galloway TS, Lowe DM, Thompson RC. Ingested microscopic plastic translocates to the circulatory system of the mussel, Mytilus edulis (L). Environ. Sci. Technol. 42, 5026-5031 (2008)

17) Tanaka K, Takada H. Microplastic fragments and microbeads in digestive tracts of planktivorous fish from urban coastal waters. Sci. Rep. 6, 34351 (2016)

18) Liebmann B, Köppel S, Königshofer P, Bucsics T, Reiberger T, Schwabl P. Assessment of microplastic concentrations in human stool - final results of a prospective study. Conference: Conference on Nano and microplastics in technical and freshwater systems (2018) DOI: 10.13140/RG.2.2.16638.02884
http://expert-environnement.fr/themes/imagesUtopiascript/Poster_microplastics2018ch_MicroplasticsHumanStool_v1_min.pdf

19) Kleinteich J, Seidensticker S, Marggrander N, Zarfl C. Microplastics reduce short-term effects of environmental contaminants. Part II: Polyethylene particles decrease the effect of polycyclic aromatic hydrocarbons on microorganisms. Int. J. Environ. Res. Public Health 15. (2018)

(2019年12月1日 掲載)

日本薬学会 環境・衛生部会

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