環境・衛生薬学トピックス

スペースデブリの大気圏再突入がもたらす大気組成の変化―宇宙利用拡大の隠れた環境リスク―

東邦大学薬学部 原 崇人
【地球上空の人工衛星軌道とスペースデブリ】
宇宙利用の急拡大が、静かに大気の化学組成を変えつつある。地球の大気(注1は高度数百km以上まで広がっており、さらにその外側では目的に応じて高度の異なるいくつかの人工衛星軌道が利用されています。一般に、地表から高度約2,000 kmまでの地球低軌道には、地球観測衛星、通信衛星、国際宇宙ステーションなどが集中しています。その外側の高度約2,000~36,000 kmにはGPSをはじめとする測位衛星が主に利用する中軌道、さらに外側の高度約36,000 kmには、地球の自転と同期して周回する静止軌道があり、気象衛星や放送・通信衛星に用いられています。近年の宇宙開発競争の活発化に伴い、地球低軌道には、運用を終えた衛星やロケット上段などの「スペースデブリ」が存在しています。

【スペースデブリの大気圏再突入による微小金属粒子の生成】
主として地球低軌道を周回していたスペースデブリは、意図的な再突入処理(注2や、わずかな大気抵抗によって徐々に軌道を下げ、最終的には大気圏へ再突入し、そのほとんどは大気圏内で燃え尽き消失します。その際、極めて高温の摩擦熱によって人工物を構成する金属材料が蒸発し金属蒸気として放出されます。この金属蒸気は、高度数十kmの冷たい大気に触れると凝集し、ナノ〜サブミクロンサイズの微小な粒子(エアロゾル)となります。この現象自体は以前から軌道力学に基づく計算や、大気中での加熱・蒸発プロセスをシミュレーションする数値モデルによって予測されていましたが、実際に大気組成にどれほど影響を与えているかの実測データはこれまで限られていました。

【自然起源の存在量を上回り始めた金属元素の登場】
一方で、地球大気中にはもともと自然由来の金属が存在します。これは彗星・小惑星由来の宇宙塵が大気圏で蒸発することで供給されるもので、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)などが主成分です。しかし近年、人工衛星やロケットの打ち上げ数の急増により、人工由来で宇宙から地球の大気に入ってくる金属の量が、特定の元素では自然起源をしのぐ可能性が指摘され始めています。2021年のSchulz & Glassmeierによる解析では、これらは自然由来で地球の大気へ供給される金属の量に匹敵、あるいは超過する可能性があると指摘されました。また、2023年のMurphyらの研究では、成層圏中の硫酸粒子を高高度観測機(注3で採取したところ、20種類以上のスペースデブリ由来の金属元素が検出され、その比率が人工材料の合金組成と一致することが明らかになりました。特にリチウム(Li)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉛(Pb)などの金属は自然由来の宇宙塵よりも多く、観測された粒子の約10%が人工金属を含んでいたと報告されています。

【大気環境と気候システムに対する潜在的なリスク】
これら人工金属由来粒子の存在は、単に大気中元素濃度を変化させるだけでなく、大気化学や気候システムにも影響を及ぼす可能性があります。例として、金属を含む粒子が南極上空においてオゾン層破壊の反応場となる極域成層圏雲の発生に影響するとの指摘があります。また、金属酸化物はオゾン層における反応を加速させる役割を有する可能性が研究されています。特にアルミニウム酸化物は近年の研究でオゾン分解過程に関連づけられており、現時点で地上の私たちへの健康影響が直接確認されているわけではありませんが、将来的な大気化学への影響が懸念されています(注4。さらに、これら微粒子が太陽光や赤外線のやりとり(放射過程)に影響し、成層圏・中間圏における高度ごとの温度変化や風のパターンを変える可能性を示すモデル研究や、スペースデブリ由来の粒子が太陽放射を吸収・散乱することで、局所的な温度変化が起きるとの仮説も提起されています。

【持続可能な宇宙利用に向けて】
この問題は、将来的に気候変動やオゾン層保護といった地球規模の環境問題と直結し得る課題です。現在、国際的にはデブリ発生を抑制する設計や、大気圏でより完全に消滅する材料選定などの検討が始まっていますが、近年の衛星打ち上げ数の急増に伴い、スペースデブリの再突入頻度、そして人工由来金属の大気への注入量は今後も増加することが予想されます。このため、再突入由来物質の全体的な量的バランス(質量収支)、大気循環に及ぼす影響、化学的な反応性などを含めた詳細な研究が急務です。今後は、大気モデルにこれら人工金属を組み込み、人工衛星由来の金属が地球大気に与える影響の全体像を、観測データと計算モデルの両方を用いて明らかにすることで、宇宙利用拡大に伴う環境リスクを正しく評価し、持続可能な宇宙開発を支える知見とすることが求められています。

キーワード: スペースデブリ人工金属オゾン層

【注釈】

(注1)地球の大気圏は大きく4つの領域に分けられる。
対流圏(地表~約10 km):気象に関する現象が発生する領域
成層圏(約10~50 km):紫外線を吸収するオゾン層が存在する領域
中間圏(約50~80 km):流星が燃え尽きる領域
熱圏(約80~600 km):国際宇宙ステーションが位置し、オーロラも発生する領域

(注2)運用終了後に衛星の推進系を用いて軌道を下げ、人による制御下で大気圏へ突入させる処理を指す。

(注3)成層圏エアロゾルの化学組成や粒径分布を調査し、火山噴火や宇宙機由来の微粒子の影響を評価するための測定機器である。

(注4) 地上から10~50 kmの成層圏に滞留するため、地表に降下する量は極めて少ないが、気候・オゾン層への影響は地表環境に間接的に影響しうる。


【参考資料・文献】

1) Murphy, D. M., et al. Metals from spacecraft reentry in stratospheric aerosol particles. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, 43, e2313374120. doi.org/10.1073/pnas.2313374120 (2023)

2) Rosenlof, K. H., et al. A simulation of the stratospheric impacts of aluminum particles from spacecraft reentry. J. Geophys. Res. Atmos., 129, 11, e2024JD042442. doi.org/10.1029/2024JD042442 (2024)

3) Schulz, L., & Glassmeier, K. H. On the anthropogenic and natural injection of matter into Earth’s atmosphere. Adv. Space Res., 67, 3, 1002-1025. doi.org/10.1016/j.asr.2020.10.036 (2021)

4) Schulz, L., et al. Space waste: An update of the anthropogenic matter injection into Earth atmosphere. arXiv preprint, arXiv:2510.21328. doi.org/10.48550/arXiv.2510.21328 (2025)

5) EGU General Assembly. Satellite mega-constellations and spacecraft re-entry: Are we harming Earth’s atmosphere? EGU24, 3860. doi.org/10.5194/egusphere-egu24-3860 (2024)

6) EGU General Assembly. Metals from spacecraft reentry in the stratosphere. EGU25, 7114. doi.org/10.5194/egusphere-egu25-7114 (2025)

7) NOAA CSL. NOAA scientists link exotic metal particles in the upper atmosphere to rockets, satellites. NOAA News, csl.noaa.gov/news/2023/388_1016.html (2023)

8) NOAA CSL. Within 15 years, plummeting satellites could release enough aluminum to impact Earth's climate. NOAA News, csl.noaa.gov/news/2025/427_0428.html (2025)

9) C&EN. Metals from space debris found in stratosphere. Chemical & Engineering News, 101, 35. cen.acs.org/environment/atmospheric-chemistry/Metals-space-debris-found-stratosphere/101/i36 (2023)

10) IADC. IADC Space Debris Mitigation Guidelines. IADC-02-01, Rev4. iadc-home.org/documents_public/view/id/318 (2025)

(2026年3月14日 掲載)

日本薬学会 環境・衛生部会

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