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部会長あいさつ


          

令和5・6年度 部会長
京都大学大学院薬学研究科
加藤 博章


  物理系薬学とは、薬学の基盤となる学問領域であり、物理化学、分析化学、放射化学、製剤学、錯体化学、分子構造学、構造生物学、イメージング、ドラッグデリバリー、情報科学などの広範な学問分野から成り立っています。今日の科学と技術の高度な発達にはこれら領域が大きく寄与しており、研究から生み出された解析手法は、疾病の原因究明、早期診断、治療過程に貢献するとともに、薬物標的の探索と構造決定、ドラッグデザイン、薬物の構造・物性研究、製剤化・投与設計、医薬品の製造・品質管理等で重要な役割を果たしています。例えば、過去10年間にノーベル化学賞と医学・生理学賞を受賞した5つの成果1)が可能になったのは、従来不可能だった物理化学や分析化学の新手法が発明されたことによると言えるでしょう。一方、育薬研究においても物理系薬学の貢献が生かされており、薬学臨床教育の充実を目的とした薬剤師養成の6年制薬学教育においても、物理系薬学は重要な役目を担っております。

 物理系薬学部会は、5つの学術集会(「バイオメディカル分析科学シンポジウム」、「金属の関与する生体関連反応シンポジウム」、「生体膜と薬物の相互作用シン ポジウム」、「次世代を担う若手のためのフィジカル・ ファーマフォーラム」、薬学会年会での「物理系薬学部会シンポジウム」)を開催し、優れた成果の発表と熱い討論を行うことを活動方針としています。さらに、学部6年制時代の物理系薬学の教育・研究のありかたについて意見交換を行い、改善に努めることも行っております。これらの活動を通して物理系薬学研究のさらなる進展と若手研究者の育成を支援して、健康、医療、創薬に貢献していきたいと考えております。

 物理系薬学部会が包含する学術分野では、技術革新に伴い発展が著しい学問領域が続々と生まれております。例えば、物理系薬学専門領域の代表的手法である質量分析、X線結晶解析、低温電子顕微鏡による単粒子解析、超解像度蛍光顕微鏡などが開発されたことにより、20年ほど前には不可能と思われていた巨大なリボソームや調製困難な膜タンパク質受容体の分子構造が次々と明らかになり、それらをもとにした詳細な分子メカニズムの解明から生命現象の理解や関連する疾患に対する創薬が合理的に行われるようになってきています。さらに、それらの応用分野として、光遺伝学2)や光免疫療法3)なども注目を集めております。このようなワクワクする研究の面白さを学生や若手に伝え、次は君が新発見をする番だと応援し励ますことにも力を入れて参りたいと思います。どうか皆様の一層のご支援とご協力をお願い申し上げます。

 1) 物理化学や分析化学の新手法開発により過去10年間にノーベル化学賞と医学・生理学賞を受賞した5つの成果:Physiology or Medicine 2021 for discoveries of receptors for temperature and touch, Chemistry 2017 for developing cryo-electron microscopy for the high-resolution structure determination of biomolecules in solution, Chemistry 2014 for the development of super-resolution fluorescence microscopy, Chemistry 2013 for the development of multiscale models for complex chemical systems, Chemistry 2012 for studies of G-protein-coupled receptors; https://www.nobelprize.org/prizes/lists/all-nobel-prizes/
2) Deisseroth, K. (2015) Nat. Neurosci., 18, 1213-1225.
3) Mitsunaga, M. et al. (2011) Nat. Med., 17, 1685–1691.



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